ジャガイモブリーダーは疫病と戦うためにどのようにFlex-Seqを利用するか
ジャガイモ(Solanum tuberosum)はイネ、コムギに続く世界で三番目に重要な食用作物であり、13億人以上の主食となっています。世界経済におけるジャガイモの全体的な価値は、主にジャガイモの加工からもたらされ、米国だけでも1,000億ドル以上の産業で70万人以上を雇用しています1。ジャガイモの世界的な重要性は、ジャガイモの宿敵である疫病菌(Phytophthora infestans)と闘うことの重要性を高めています。疫病は急速に蔓延する病害で、卵菌によって引き起こされ、ジャガイモ産業に壊滅的な影響を与える可能性があります。
図1. FAOSTAT, New Food Balances, 2020年2月
先進国では、疫病防除のための殺菌剤散布プログラムが、世界における病害防除のための殺菌剤使用量の最も大きな割合を占めています。病害の影響を最小限に抑えるための防除対策にかかるコストに加え、作物の損失を考慮すると、この病害のコストは世界で年間67億米ドルに上ると推定されています2。
Phytophthora infestansゲノムの大きさは約840 Mbで、比較的反復数の少ない保存された遺伝子配列をもつブロックと、低密度ではあるものの反復数が多い遺伝子が交互に並ぶ疎な領域で構成されています3。P. infestansゲノムはトランスポゾンが非常に豊富で、反復領域と疎な領域と合わせて全ゲノムの約3分の1を占めています。これらすべての要因が、P. infestansにおける突然変異の多様性を刺激します3。
P. infestansは卵胞子を形成し、土壌中や植物残渣中で数年にわたり生存可能なため、長期間にわたって再感染する可能性があります。
ペルーのThe International Potato Centre(CIP)はジャガイモ、サツマイモ、アンデスの根菜類を中心としたCGIARの研究センターです。CIPは、手頃な価格で栄養価の高い食品へのアクセスを向上させ、包括的で持続可能なビジネスと雇用を促進するために、科学に基づく革新的なソリューションを提供しています。CIPはまた、根菜類の農業食糧システムの気候変動への耐性を高める活動も行っています。CIPはペルーのリマに本部を置き、アフリカ、アジア、ラテンアメリカの20カ国以上で研究活動を行っています。
CIPは、先進的なバイオテクノロジーと分子生物学的手法の活用により、野生近縁種から栽培ジャガイモに疫病抵抗性を導入することで、大きな進歩を遂げました。これらの品種は、ケニアのILRI-BecA(Biosciences eastern and central Africa)ハブとウガンダの国立農業研究機構で完全に評価され、現在では疫病に抵抗できています。これらの疫病抵抗性ジャガイモは数カ国でも栽培されています。ペルーでは2023年に3つの疫病抵抗性品種が発表されました4。
これらの新しいジャガイモ品種は、ジャガイモ野生種に由来するP. infestans抵抗性遺伝子(Rpi遺伝子)や導入素材を利用して育種されましたが、このような育種プログラムは複雑で長期にわたります。新しいアプローチでは、GWASによって主要なRpi遺伝子を同定し、その後、遺伝子工学によって「遺伝子ピラミッド」と呼ばれる、複数のRpi遺伝子の組み合わせを構築することに重点を置いています。単一の遺伝子に抵抗性を頼る戦略は、急速に進化する病原体によって克服されることがあるためです。
プロジェクトの目的:
- 疫病抵抗性に関するGWASを行う
- いくつかのプレブリーディング系統におけるハプロタイプ遺伝の評価
- それぞれのターゲットマーカーに近接する配列のSNP情報の提供
このプロジェクトで、CIPはジャガイモ育種プログラムのためのカスタムパネル作成の一環として、Flex-Seqターゲットジェノタイピングを使用しました。Flex-Seqを選択した理由は、その2本のプローブのハイブリダイゼーションプロセスにより、目的マーカーの近接領域の塩基配列情報も得られるためです。
Flex-Seqは、2本のFlex-Seqプローブによりそれぞれの目的領域を標的とし、多くの場合一つのSNPにフォーカスします。プローブはSNPの両サイドに結合するように設計することで、目的領域を回収する能力の高さを高めています。両方のプローブが結合すると、プローブ間の相補的な配列が合成され、目的領域がゲノムDNAから増幅されます。ゲノムDNAと非特異的に結合した産物は除去されます。独自のFlex-Seqプローブにより、単一の反応で高レベルのターゲットマルチプレックス化が可能になります。
塊茎サンプルはペルーのCIPのプレブリーディング素材より、系譜間の多様性と疫病抵抗性の違いによって選ばれました。
データ処理は進行中ですが、初期データは良好で、それぞれのターゲットマーカーに近接した配列に存在するSNP情報を提供できる見込みです。さらに、リード深度情報とアレルのリード数を用いて、アレルdosageを計算し、抵抗性遺伝子が提供するdosageと比較するために利用できるでしょう。
データ処理終了後、20Kローカスをターゲットとした高密度Flex-Seqパネルによって優良な品種/親のジェノタイピングを行う予定です。
CIPの研究者であるMoctar Kanteに、ジェノタイピングがブリーダーにもたらす利点をについて聞きました。
『コスト効率が重要な利点です。育種サイクルの初期段階で形質または一群の形質を選抜すること、また育種サイクルの初期段階で両親を選抜することが可能であるため、短期で遺伝的獲得量を増大させることができます。主要形質の正確な表現型評価には費用がかかり、また、病害が圃場プロットで自然に発生しない場合、病害評価において資源を有効活用することができません。そのため、病害評価のために多数のクローンを管理する場合には、分子マーカーを用いることが有効な選択肢となります。その他の形質については、育種の目標によってはマーカーの使用は初期段階でも後期段階でも可能であり、いくつかのマーカーの固定効果を予測モデルで説明することもできます。』
Flex-Seqの20Kローカスの結果の他に、CIPは周辺配列データも得ることができました。得られたリードはGBSの典型的な50塩基よりも平均4倍長く、Flex-Seqでは200塩基長のリードが得られました。Moctarは現在データを解析中です。
将来的に、彼らはジャガイモの病害で二番目と三番目に重要なジャガイモYウイルス(PVY)と青枯病に対する抵抗性形質も調べたいと考えています。青枯病に対する持続性のある抵抗性を開発する前に、病原性を理解するための革新的な研究が必要です。また、高収量、乾物重、熱ストレス、生物的ストレス、良質の塊茎またF1育種についても研究する予定です。
ジャガイモ用のFlex-Seq設計済みパネルには、ジャガイモYウイルス抵抗性マーカーがあらかじめ含まれています。
CIPのジェノタイピングはCrop Wild RelativeプロジェクトとUSAIDの資金により支援されました。サンプルはリマでプレブリーディング活動を担当するMariela Aponteの好意により提供されました。
Flex-Seqサービスの概要および設計済みパネル(Flex-Seq industry standardパネル)については弊社ウェブサイトをご覧ください。
関連コンテンツ
- US Dept of Agriculture dives into blueberry and cranberry genotyping
- International Potato Center
- University of Wisconsin Potato Breeding & Genetics laboratory
引用文献
-
National Potato Council, Annual Potato Yearbook 2023, (PDF) p38.
-
Caruana, B.M., de Boer, R.F., Rodoni, B. et al. Genetic epidemiology of late blight in Australia using ancient DNA. Australasian Plant Pathol. 52, 487–499 (2023).
https://doi.org/10.1007/s13313-023-00936-6 -
Ivanov AA, Ukladov EO, Golubeva TS. Phytophthora infestans: An Overview of Methods and Attempts to Combat Late Blight. J Fungi (Basel). 2021 Dec 13;7(12):1071.
https://doi.org/10.3390%2Fjof7121071 -
Gastelo M., Pérez W., Eyzaguirre R. et al. CIP-PODEROSA CROCANTE, CIP-PODEROSA POLLERA, and CIP-PODEROSA WATIA: New Potato Varieties for Family Farming with Resistance to Late Blight and High Quality for the Frying Industry. Am. J. Potato Research 100, pages 288–303 (2023).
https://link.springer.com/article/10.1007/s12230-023-09917-3