ゲノム選抜による家畜育種の収益性向上
ゲノム選抜はどのようにして収益性を高めるのか?
畜産農家や繁殖農家の収益性は、家畜の品質に直結しています。しかし品質は、その家畜は目標期間中に十分な体重を増やしているか、どれだけ効率よく体重を増やせるか、どれだけ病気に強いか、など非常に多くの方法で測定することができます。最近まで、畜産農家はこのような複雑な疑問を解決し、最善の結果を出すために、彼らの「ノウハウ」に頼らざるを得ませんでした。もし単純な話であれば、確かに最大の雄牛と最大の雌牛を交配させれば、超大型の子孫が生まれるでしょう。
ありがたいことに、今日、次世代シーケンサー(NGS)は、畜産ブリーダーが家畜を分子レベルで理解するのに役立ち、重要な育種プログラムを加速させるプロセスから博打を取り除くことができるようになりました。
しかし、そのコストは利益を圧迫するのではないか?
畜産農家や繁殖農家は、最終的な買い手が最良の価格を求めて購買する、競争の激しい世界市場で厳しいマージンの中で経営しています。長期的には、家畜の収量、飼料効率、回復力を最大化しない家畜は、最大化する家畜に負ける可能性が高くなります。遺伝的獲得量に投資することは、収益性を高め、持続可能性を向上させるための重要な要素です。
黄色羽のニワトリにおける2021年のゲノムワイドアソシエーション研究は、遺伝学が成長速度形質の予測をいかに改善できるかを示しました1。『ゲノミック最良線形不偏予測(BLUP)の精度は、従来の血統書に基づくBLUPモデルと比較して22.0~70.3%向上しました。Genomic feature BLUPモデルは、ゲノミックBLUPモデルと比較して、観察された予測精度をさらに13.8~15.2%向上させました。』 この研究では次のように結論付けています:『1つ1つのSNPの影響はわずかであるが、ゲノム全体における多数のSNPの影響の集積が予測精度に大きな影響を与えます。マーカー密度を高めることで予測精度を向上させることができますが、表現型に影響を与えない部位を多数含めることはゲノム予測精度に悪影響を及ぼす可能性があり、表現型に寄与するSNPをあらかじめ選択することで、予測精度を向上させ、コストを削減することが可能です。』
Gunianらは、米国におけるウシのゲノム選抜の分析において、ホルスタイン種とジャージー種がゲノム選抜から最も恩恵を受けたと結論づけ、米国における有色品種は遺伝子型判定から大きな恩恵を受けることができると推奨しています2。
US Council on Dairy Cattle Breedingが実施した調査によると、米国の乳牛のゲノム選抜プログラムは遺伝的獲得量を倍増させました。2010年以降、ネットメリットの年平均増加率は85ドルで、それ以前の5年間は40ドルでした3。
ブタの飼料効率(FE)は大幅に改善されたものの、飼料コストは依然としてブタの収益性の高い飼育のための大きな課題です。カナダのDalhousie大学(DAL)の動物科学科は、飼料効率に関する論文で次のように述べています:『摂食行動とFE形質の間には表現型および遺伝的な正の相関があり、飼料効率の高い個体の選抜にそれらが関与している可能性を示しています。摂食行動を深く理解することで、繁殖農家は給餌戦略を改善し、生産性を向上させることができます。FEの選抜においてに新しい形質を導入することで、ブタの予測精度を大幅に向上させることができます。Martinsen ら(2015)は、脂肪効率や赤身肉効率のような新しい FE 形質を導入しました。彼らの結果は、これらの形質が、低飼料コストで赤身肉を効率的に成育させる遺伝的ポテンシャルの高い家畜を繁殖農家が選抜するのに役立つことを示しています。 バイオマーカーや遺伝子ネットワーク、あるいは原因遺伝子やバリアントなどを統合して得られる情報は、養豚業においてより高い精度と遺伝的獲得量を達成するために、ゲノム選抜プログラムに組み込むことができます。』4
Pig Improvement Company (PIC)は遺伝的獲得量指数を経時的にマッピングし、2013年にrelationship-baseのゲノム選抜に切り替えてからの付加価値を示しています。下のグラフは、relationship-baseゲノム選抜を使用した場合の遺伝的獲得量が、血統的選抜を使用した場合の2倍になったことを示しています。PICは、relationship-baseゲノム選抜プログラムにより、すべての形質について遺伝的進歩が年間35%増加したため、ブタ1頭当たり年間2.70ポンドから3.10ポンドの利益改善につながったと計算しています5。
図1. 図はBoyd et al. Animal 13:12 (2019)6から引用したもので、PICの遺伝的獲得指数を経時的に示したものである。2013年からの傾きの増加は、選抜基準にrelationship-baseゲノム選抜が導入された後の遺伝的獲得量の改善を示している。
しかし、NGSによるターゲットジェノタイピングは高価で融通が利かないのでは?
シーケンスによりジェノタイピングを行うFlex-Seqでは、マーカー数に応じてジェノタイピングと育種目標に達成できるよう、柔軟なコストを提供しています。
Flex-Seqには、ブタ、ニワトリ、ウシ用設計済みパネルが用意されていますが、ターゲットマーカーの変更は簡単に行えます。パネルは簡単かつ迅速にジェノタイピングの目標に適合させることができ、固定アレイよりもコスト効率よく、フレキシブルなソリューションを提供します。
解析の流れ
図2. Flex-Seqプロトコル。図では、2つの仮想的なターゲットに対するプローブのハイブリダイゼーションと、NGSによるジェノタイピングへの流れを示している。
プローブのハイブリダイゼーションは、マルチプレックスPCRよりも均一で、特異性高くオンターゲットデータを提供し、ターゲット領域の多様性を可能にします。シーケンスによるターゲットジェノタイピングは、興味のある領域をターゲットにするため無駄が少なく、データセットは他技術で得られた結果と一致します。パネルは、研究を続けるうちに生じる新たな関心領域を調べたり、マーカー密度を調整したりすることが可能です。これらすべてが、超ハイスループット・ジェノタイピング・ワークフローと組み合わされることで、育種目標を改善するためのジェノタイピングを達成するのに役立つ、費用対効果の高いプラットフォームとなります。
ウシ、ブタ、ニワトリのパネルは、ジェノタイピングされた個体間で高い均一性を示しています。
ウシパネル
ブタパネル
ニワトリパネル
図3. ウシ(上)、ブタ(中)、ニワトリ(下)のパネルにおける代表的なローカスの回収率と均一性。X軸は各パネルで標的としたローカス、Y軸はローカスごとのシーケンスデータ量(log 10変換)を示す。各パネルについて、最大5つの代表サンプルのデータを中央値とともに示す。
全ての設計済みパネル(Flex-Seq industry standardパネル)については弊社ウェブサイトをご覧ください。
Flex-Seqパネルのさらに詳細について、Dr. Leandro Nevesによるウェビナーでご覧いただけます。
(メーカーページにリンクします。簡単なご登録をお願いいたします)
引用文献
- Yang, R., et al. Genomewide association study and genomic prediction for growth traits in yellow-plumage chicken using genotyping-by-sequencing. Genet Sel Evol 53, 82 (2021). https://doi.org/10.1186/s12711-021-00672-9
- Guinan, F.L., et al. Changes in genetic trends in US dairy cattle since the implementation of genomic selection. Journal of Dairy Science, Volume 106, Issue 2, 2023,Pages 1110-1129,ISSN 0022-0302, https://doi.org/10.3168/jds.2022-22205
- Wiggans, G. R., et al. Genomic selection in United States dairy cattle. Frontiers in Genetics,Vol 13,2022, https://doi.org/10.3389/fgene.2022.994466
- Pourya, D., et al. Application of Genetic, Genomic and Biological Pathways in Improvement of Swine Feed Efficiency. Frontiers in Genetics, Vol 13, 2022, https://doi.org/10.3389/fgene.2022.903733
- Pig Improvement Company website. Never Stop Improving: Genetic Improvement in the Pig Industry - PIC UK
- Fig 1. Boyd, R.D., et al. Review: innovation through research in the North American pork industry. Science Direct, Vol 13, 2019, https://doi.org/10.1017/S1751731119001915