Stellaris™ RNA FISH 実験結果を理解するための 5 つのコントロール

Stellarisのコントロールはどのような実験でも必要で、特に、新しいStellaris RNA FISHプローブセットを使ってサンプルを調べるのが初めての場合は、適切なコントロールを検討することが重要です。実験においてポジティブコントロールとネガティブコントロールを活用するアイデアは以前から存在しますが、時間の節約を優先するあまり、よくコントロールの検討は避けがちです。とはいえ、最終的には実験結果をどのように解釈するかが重要です。

Stellaris実験におけるポジティブコントロールとネガティブコントロールは、ざまざまな視点から考えることができます。
例えば、初めてスポットを観察できた場合、以下のようなことが考えられます。
・観察しているシグナルはRNAに結合したプローブによるものか
・そのスポットは真のシグナルか、それとも単なるバックグラウンドなのか
・そのスポットはターゲットに特異的なのか、それとも他のRNAを検出しているのか
一方で、その逆、つまりスポットが観察できなかった場合は以下のようなことが考えられます。
・実験は正しく実施されたか
・RNAはサンプル中で発現しているのか、それとも分解してしまったのか

以下に、 Stellarisで実験を行う際に推奨されるコントロールをいくつか示します。これはコントロールの可能性を網羅したリストではないので、別のコントロールによって結果をより良く解釈する方法が見つかるかもしれません。


1.観察しているシグナルは、RNAに結合したプローブによるものでしょうか?
推奨のコントロール:RNase処理
新しいプローブセットを使用して初めてStellaris実験を行う際には、このような疑問が生じるかもしれません。観察しているシグナルが本当にRNAであり、他の不要なシグナルではないことを、自身(あるいはレビュアー)に納得させるために、一度はこのコントロールを含める必要があるでしょう。
この質問の回答となる簡単な方法としては、RNaseで前処理したコントロールサンプルを使うことです。通常、ハイブリダイゼーションステップの前に、サンプルをRNase A (50 µg/mL)で30分から1時間、 37℃で処理します。この一般的なプロトコルには他にもバリエーションがあり、サンプルの種類に応じて調整する必要があるかもしれません。StellarisのシグナルがRNAに結合したプローブによって生じたものである場合、RNase処理によってシグナルは消失するはずです。


2.そのスポットは真のシグナルか、それとも単なるバックグラウンドなのでしょうか?Stellaris RNA FISH 画像イメージ
まずはスポットが見えて一安心ですが、このスポットが本物かどうかという疑いを取り除くためには、シグナルの特異性に関するいくつかのコントロールを含める必要があります。
推奨のコントロール:プローブ無しのコントロール
最初に検討すべきはブローブを入れないコントロールです。このサンプルは他のサンプルと同じように処理しますが、プローブ処理の工程はハイブリダイゼーションバッファーのみです。 このプローブ無しのコントロールサンプルにより、真のスポットと自家蛍光を区別することができます。

推奨のコントロール:使用していないフィルターで全サンプルを観察する
全サンプルを撮像する場合、非特異的シグナルを決定するために、未使用のフィルター(蛍光色素が検出されないはずのフィルター)で観察することも重要です。FITCフィルターはほとんどのメーカーの顕微鏡やプラットフォームで標準的なフィルターブロックとなっています。通常のFITC励起フィルターブロックは475~495nmであり、蛍光は500~540nmです。これは通常、あらゆるサンプル、特に 組織で自己蛍光を測定する場合に最適な選択肢です。自家蛍光は、形や大きさに非常にばらつきがあることを覚えておいてください。 もし未使用のフィルターに同じスポットや形状が現れたら、それは間違いなく疑わしいものです。

推奨のコントロール:無関係な生物種の遺伝子をターゲットにする
上記の推奨事項に加えて、無関係な生物の遺伝子をターゲットにしたプローブセットの使用を検討することも可能です。例えば、細胞や組織がGFP(緑色蛍光タンパク質)を発現していない場合、GFP RNAをターゲットにしたプローブセットを使用することが可能です。ネガティブコントロールとしてセンス鎖のプローブを使用すべきかどうかという質問をよく受けますが、センス鎖のプローブをネガティブコントロールとして使用することは、バックグラウンドの増加や偽シグナルの発生、あるいはセンス鎖からの転写の可能性があるため、Stellarisでは一般的にお勧めしておりません!


3.そのスポットはターゲットに特異的なのか、それとも他のRNAを検出しているのでしょうか?
推奨のコントロール:ターゲットの転写産物が存在しない細胞株または組織を使用する
遺伝子特異的プローブセットからのシグナルの特異性を決定するために、理想的なネガティブコントロールは、転写産物を含まない細胞株や組織でプローブセットをテストすることです。また、それぞれ標的siRNAでノックダウンまたはノックアウトした細胞や組織を使うことも可能です。 特定のRNA配列を用いてプローブセットをデザインするように注意されている限り、これは通常問題にはなりません。しかし、スプライスバリアントを持つRNAや、類似性の高い配列を持つ大きな遺伝子ファミリーに由来するRNAは数多く存在する為、慎重にプローブセットをデザインすることが鍵となります。この非常に重要なトピックに関する詳細な情報をご希望の場合は、こちらよりお問い合わせ下さい。デザインのヒントと推奨事項が掲載されているStellaris RNA FISH ご利用ガイドのダウンロードが可能です。


4.実験は正しく実施されたでしょうか?
全くスポットが得られない場合によくこの質問が生じます。陽性コントロールがない場合、この質問に答えるのは難しいです。また、サンプルのRNAの完全性が疑わしい場合や、ターゲットにしているRNAがサンプル中で実際に発現していない場合も、結果が出ないことがあります。実験終了後にこの疑問を避ける方法がいくつかあります。
推奨のコントロール:カタログに掲載されているプローブセットを使用する
実験を行う際に、カタログに掲載されている、機能テスト済みのポジティブコントロールプローブセットをお試しください。実験が適切に行われ、ポジティブコントロール遺伝子がサンプルで発現していれば、特異的なシグナルが生成されます。カタログに掲載されているプローブセットを使用することができない場合は、ターゲット遺伝子に対するカスタムプローブセットを設計することに加えて、サンプルタイプにおいて比較的中~高程度存在する遺伝子に対するカスタムプローブセットを設計してみてください。

5.RNAはサンプル中で発現しているのか、それとも分解してしまったのでしょうか?
推奨のコントロール:補完的な方法を実施する
初めてサンプルのRNA発現を検査する場合、qPCRのような相補的な方法を実施することで、ターゲットがサンプルタイプで実際に発現していることを確認でき、 qPCRではサンプル中のターゲットの発現量も知ることが可能です。

推奨のコントロール:可能であれば、細胞株でターゲットを過剰発現させる
場合によっては、おそらくコピー数が少ないため、RNAシグナルの識別が難しいことがあります。このような場合、シグナルの特異性を確認するために、標的を細胞株へトランスフェクションまたは形質導入することにより、標的の発現を増加させることを検討してもよいでしょう。ターゲットが試薬や他の処理で誘導できるのであれば、それも良い方法かもしれません。

推奨のコントロール:サンプル中のRNAの完全性をチェックする
サンプル中のRNAの完全性をチェックすることも重要です。ポジティブコントロールプローブセットを使用する以外にも、いくつかの方法があります(上記をご参照下さい)。


Originally published : 2023/03/22 ※最終更新日

 

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