ASOやsiRNAの最新技術とは?

過去数十年の間に、研究者たちは、オリゴヌクレオチドのデリバリーや安定性、特異性の課題を克服する方法を開発し、目覚ましい進歩を遂げてきました。我々はその可能性をフルに活用するまでには至っていませんが、その現在のペースは爽快というほかにありません。

2023年現在、18の核酸治療薬が上市されており、さらに多くの治療薬が後期臨床開発段階にあります1。これらのうち、アンチセンスオリゴヌクレオチドと低分子干渉性RNA(small-interfering RNAs, siRNA)が主要なセグメントを占めており、miRNA, アプタマー、DNAzymesなど他のタイプも開発が続けられています2。本ブログでは、ASOとsiRNAの生物学的作用を増強するための最新の技術的進歩について概説します。

ASOやsiRNA治療薬はどのように作用するのか?

Eye_brandedオリゴヌクレオチド治療薬は薬物標的における画期的な転換を引き起こしました。薬物標的の焦点をタンパク質レベルから核酸レベルに移しました。RNA生物学の理解が深まり、RNAケミストリーを微調整する技術が確立されたことによって、RNAにおける調節はますますエキサイティングなものとなっています。最も有望な2つのツールであるASOとsiRNAは、代謝性疾患、腫瘍学、神経科学、眼科学など、さまざまな治療分野に応用されています。 

作用メカニズム

siRNAは19-21塩基からなる二本鎖RNAで、RNA干渉によって機能します。
細胞内に取り込まれると、siRNAはRNA誘導サイレンシング複合体(RISC)に取り込まれ、アンチセンス鎖はRISC複合体を標的mRNAに誘導し、その分解を導きます3

 

課題
未修飾のオリゴヌクレオチドは、内在性ヌクレアーゼによる分解を受けやすく、細胞膜透過に限界があり、腎臓から速やかに排出されます。これらの課題を克服するため、臨床開発プログラムでは、核酸治療薬の構造や化学的性質を改変し、薬物動態学的特性や臨床効果を改善することに焦点が当てられてきました4
この目的のために、ホスホン酸修飾、リボース修飾、塩基修飾などの化学修飾が開発されてきました。さらにデリバリーの制限を克服し、組織特異性や細胞取り込みを高めるために、特異的な化学基や受容体リガンドを用いた製剤やコンジュゲーションが創られてきました。これらのテクノロジーの事例には、コレステロールやパルミチン酸などの親油性修飾やビタミンベースの修飾、N-アセチルガラクトサミン(GalNAc)コンジュゲートがあります。

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化学修飾がどのように治療への応用を可能にするかについては、以前の記事をご覧ください。
Overcoming manufacturing challenges associated with nucleic acid therapeutics.核酸治療薬に関連する正常上の課題を克服する

 

 

RNA標的治療薬の進歩

一般に、核酸治療薬はそれらの修飾の種類によって3つの世代に大別されます。 

第一世代
第一世代のオリゴヌクレオチド治療薬は、ホスホロチオエート骨格や他の修飾を特徴としました。メチルホスホネートなどの修飾を施し、ヌクレアーゼ分解に対する耐性を高めます。ホスホロチオエートオリゴは、両親媒性であり、血清中、細胞表面および細胞内のタンパク質と結合することができます。これらの相互作用により効果的な細胞への取り込みと組織への分布が促進されるため、ホスホロチオエート修飾ASOを生理食塩水でさまざまな経路より投与することが可能になります5。しかしながら、siRNAは二本鎖で分子量が大きいという特徴を持つため、血清タンパク質と結合せず、すぐに体外に排出されてしまいます。このため、組織へのデリバリーは難しく、脂質やナノ粒子製剤、あるいは細胞表面受容体結合部位による化学修飾など、特殊なデリバリーシステムが必要になります3, 6。さらにsiRNAはRISCがわずかなミスマッチに寛容であることから、オフターゲット結合を回避し、全身毒性を引き起こす可能性のあるToll様受容体の活性化を防ぐために、siRNAは慎重に設計される必要があります7

第二世代
次の世代のオリゴヌクレオチド治療薬は、ホスホロチオエート骨格に加えて、糖部位の2’位に修飾を組み込んでいます。これらの修飾はヌクレアーゼ耐性を一段と高め、標的RNAへの結合親和性を高めます5。最もよく使用される修飾には、2’-O-methyl(2’-OMe), 2’-O-methoxyethyl(2’-MOE)や2’-fluoro(2-F’)などがあります8。ここで注目すべきは、このような修飾を受けたASOは、標的RNAに対する親和性が高く、細胞毒性は低い一方で、RNase H依存性ASOに不可欠なRNA切断のためにRNase H1をリクルートすることができないという制限があることです。この制限を克服するために、中央のDNAセグメントは保持され、修飾された化学的なヌクレオチドで挟まれ、その結果ギャップマーとして知られる構造が形成されます9。 

第三世代Patient_and_doctor_branded
最新の世代のオリゴヌクレオチド治療薬は、さらに結合親和性の高い塩基修飾を特徴としています。これには、tricyclo-DNA(tcRNA), ロックド核酸(LNA)、ペプチド核酸(PNA)やホスホロジアミデートモルホルノオリゴマー(PMO)などが含まれます。LNAは肝臓毒性が高いため、メトキシエチル鎖(cMOE)やエチル鎖(cEt)オリゴヌクレオチドのメチル鎖やエチル鎖が多く利用されます5。しかしながら、PMOやPNAは毒性が低いものの中性に帯電しており、細胞への取り込みが悪いため、効果的なデリバリーには、バイオコンジュゲートやキャリアが必要になります5

 

新たなテクノロジー: 最新技術と今後の展望

MsPA(Mesylphosphoramidate)結合
MsPA結合は、RNase H1を介したmRNA分解のためのホスホロチオエートに代わるものです。ここでは非架橋酸素原子の一つがメタンスルホニルアミド基で置換されています。いくつかのホスホロチオエートをMsPAに置き替えたギャップマーASOは、マウスモデルにおいて、力価の向上と細胞毒性の低減、薬力学効果の持続時間の延長を示しました10

デュアルシュガー修飾
2’モノ修飾と比較して、デュアル修飾を利用することで、ヌクレアーゼの安定性を向上させ、siRNAのサイレンシング活性を延長する相乗効果が実証されています。これらの修飾の例としては、2’,4’-および2’,5-修飾、5’-E/Z- vinylphosphonateおよびnorthern  methanocarbacyclic(NMC)修飾などがあります。興味深いことに、研究により、最大限の治療効果を得るためには、デュアルリボース修飾が最小限の数でも十分であることが示唆されています11

核酸塩基誘導体
5-hydroxycytosine, 2-thiothymine, 8-bromoguanineなどの特定の核酸塩基誘導体を組み込むことで、LNAギャップマーにおける肝毒性が優位に減少することが実証されています。重要なことは、この核酸塩基修飾技術は部位特異的です。複数の修飾が相乗的にASOの肝毒性を低下させる可能性があります12。同様に、グアニジン架橋核酸(GuNA)は、新規な2’, 4’-架橋核酸、ロックド核酸であり、標的RNAに対する強い親和性と優れたヌクレアーゼ耐性を示しました。GuNA型ASOは、LNA型ASOと比較して耐性があり、低い肝毒性を示しています13

細胞透過性ペプチド(CPPs)Reviewing_scan_branded
GalNAcや脂質コンジュゲートの他に、ASOやsiRNAのドラッグデリバリーを強化するために、多くのCPPが開発されています。CPPは6-30アミノ酸残基からなり、エンドサイトーシスを介して細胞内に浸透する可能性があります。例えば、HIV-1 Tatペプチド、HIV糖タンパク質-41配列由来のMPG(N-Methylpurine DNA Glycosylase)、ショウジョウバエ antennapedia 褒め御ドメイン由来のpenetratin、人工ポリアルギニンペプチドなどがあります。MPGやpenetratinのような両親媒性ペプチドは、特定のモル比や電荷比でsiRNAと安定な非共有結合性複合体を形成することができ、共有結合の代替となりえます14。さらに、選択的なデリバリーのために、条件付きで活性化可能なCPPがいくつか開発されています。その一例として、リジンからヒスチジンへの置換で構成されるpH感受性のトランスポーターCPPがあり、腫瘍微小環境のような酸性条件下でも細胞内に入ることができます15

siRNAの構造的な修飾
siRNAの循環時間と生体内分布を増加させるために、いくつかの構造的な修飾が前臨床モデルで検討されてきました。有望なアプローチには、環状siRNA、直鎖状多量体siRNA、分岐状多量体siRNAおよびDicer基質などがあります16。構造的なsiRNA修飾を、合理的な化学修飾デザインと組み合わせることで、生体内分布を改善し、治療特性を向上させることが実験で示されています。

 

ASOおよびsiRNA合成のための高度なソリューションSyringe_branded

LGC Biosearch TechnologiesTM社では、より良い患者のアウトカムのために最先端の核酸治療薬を開発することに専念しています。最新の技術開発に合わせて定期的に化学修飾ツールボックスをアップグレードし、ASOやsiRNA治療薬の安定性、細胞デリバリー、有効性を改善するための最先端のツールを提供しています。承認済みまたは開発中の100を終える医薬品が、当社の試薬の少なくとも1つを使用し、製造されています。

当社とのパートナーシップにより、Biosearch Technologies社の
技術的専門知識、オリゴヌクレオチド修飾、固体担体、試薬などの広範な製品のポートフォリオを活用頂き、急速に進化するこの分野で一歩先を行くお手伝いをさせて頂きます。

 

参考文献

  1.  Egli M, Manoharan M. Chemistry, structure and function of approved oligonucleotide therapeutics. Nucleic Acids Res. 2023;51(6):2529-2573. doi:10.1093/nar/gkad067
  2. Moumné L, Marie AC, Crouvezier N. Oligonucleotide Therapeutics: From Discovery and Development to Patentability. Pharmaceutics. 2022;14(2):260. doi:10.3390/pharmaceutics14020260
  3. Thakur S, Sinhari A, Jain P, Jadhav HR. A perspective on oligonucleotide therapy: Approaches to patient customization. Front Pharmacol. 2022;13:1006304. doi:10.3389/fphar.2022.1006304
  4. Crooke ST, Witztum JL, Bennett CF, Baker BF. RNA-Targeted Therapeutics. Cell Metab. 2018;27(4):714-739. doi:10.1016/j.cmet.2018.03.004
  5. Xiong, H., Veedu, R. N., & Diermeier, S. D. (2021). Recent Advances in Oligonucleotide Therapeutics in Oncology. International Journal of Molecular Sciences, 22(7). https://doi.org/10.3390/ijms22073295
  6. Alshaer W, Zureigat H, Al Karaki A, et al. siRNA: Mechanism of action, challenges, and therapeutic approaches [published correction appears in Eur J Pharmacol. 2022 Feb 5;916:174741]. Eur J Pharmacol. 2021;905:174178. doi:10.1016/j.ejphar.2021.174178
  7. Hu B, Zhong L, Weng Y, et al. Therapeutic siRNA: state of the art. Signal Transduct Target Ther. 2020;5(1):101. Published 2020 Jun 19. doi:10.1038/s41392-020-0207-x
  8. Thazha P, Bhat B. 2-Modified Oligonucleotides for Antisense Therapeutics. Current Topics in Medicinal Chemistry, 2007, 7(7), 641–649. doi:10.2174/156802607780487713 
  9. Lim KRQ, Yokota T. Invention and Early History of Gapmers. Methods Mol Biol. 2020;2176:3-19. doi:10.1007/978-1-0716-0771-8_1
  10. Anderson BA, Freestone GC, Low A, et al. Towards next generation antisense oligonucleotides: mesylphosphoramidate modification improves therapeutic index and duration of effect of gapmer antisense oligonucleotides. Nucleic Acids Res. 2021;49(16):9026-9041. doi:10.1093/nar/gkab718
  11. Gangopadhyay S, Gore KR. Advances in siRNA therapeutics and synergistic effect on siRNA activity using emerging dual ribose modifications. RNA Biol. 2022;19(1):452-467. doi:10.1080/15476286.2022.2052641
  12. Yoshida T, Morihiro K, Naito Y, et al. Identification of nucleobase chemical modifications that reduce the hepatotoxicity of gapmer antisense oligonucleotides. Nucleic Acids Res. 2022;50(13):7224-7234. doi:10.1093/nar/gkac562
  13. Sasaki T, Hirakawa Y, Yamairi F, et al. Altered Biodistribution and Hepatic Safety Profile of a Gapmer Antisense Oligonucleotide Bearing Guanidine-Bridged Nucleic Acids. Nucleic Acid Ther. 2022;32(3):177-184. doi:10.1089/nat.2021.0034
  14. Singh T, Murthy ASN, Yang HJ, Im J. Versatility of cell-penetrating peptides for intracellular delivery of siRNA. Drug Deliv. 2018;25(1):1996-2006. doi:10.1080/10717544.2018.1543366
  15. Tarn WY, Cheng Y, Ko SH, Huang LM. Antisense Oligonucleotide-Based Therapy of Viral Infections. Pharmaceutics. 2021;13(12):2015. Published 2021 Nov 26. doi:10.3390/pharmaceutics13122015
  16. Chernikov IV, Ponomareva UA, Chernolovskaya EL. Structural Modifications of siRNA Improve Its Performance In Vivo. Int J Mol Sci. 2023;24(2):956. Published 2023 Jan 4. doi:10.3390/ijms24020956

 

 

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